いつから言葉の代わりに身体がしゃべるようになったのか
妹は彼氏と性行為をしていた、家で。
私も家族も寝ている間に。本当に気持ち悪い。家ですんなよ。ホテル行けよ。そういう性癖であってくれたほうが、まだまし。
(16歳女性、過食嘔吐)
◇言葉を持てないと身体で表現するしかない
妹への、なんとも言えない怒りを現したあと、彼女はこう言った。
明日から栄養失調で倒れることを目標に生きていきます。
水のみで生活します。倒れたら、私の苦しみ伝わるよね。
…彼女に必要なのは倒れることではなくて、
どうして言葉で伝えることが出来ないのか、どこで言葉が届かないと絶望したのか、といった自分を構成している今までの自分を振り返って原因を探すこと。あるいは、身体ではなく言葉で苦しさを相手に伝える訓練をすることなんだと思った。
怒りの叫びが言葉として出て行けないので、しかたなく、身体が代行指定し待っているこの状態が続けば、身体に負荷が掛かり続けて、いつかは本当に倒れてしまうだろう。
■普通じゃない行動の文脈をアセスメントする
子どもの問題行動を読み解いていく場合には
表面的な出来事に振り回されずに
「この子はこの行動を通して何が言いたいのだろうか?」ということを。
思春期の子どもたちに関して周りが問題と感じるものは
実はその多くがコミュニケーション不全を背景にしています。
外に向かう問題行動にしても
自分で自分を追い込んで病気になってしまう場合にしても
自分のストレスを言語的に表現できないために
問題行動や病気を通して訴えていると思えるケースがとても多いのです。
ところが、大人の側がそれをよく理解しておかないと、
事態は少しおかしな方向へ進んでしまう。
■極端な価値観を形成する出来事
彼女はこうも言っている
大人になればやるんだよ、とか言われたけど、やんないから。きもい。まじきも。男いらない。ろくな奴いないんだ。最終的に大切なのは自分なんだから。
なぜ男性だけに嫌悪感が強いのか、あるいは人間そのものを信用できないのか。
どうして男や人間を信じることが出来なくなったのか。
どうして男性に執着するのか。
食べ物と同じで好きでも嫌いでも、どのみちそれらを意識しているって事は執着しているって事。
執着は恐怖感から発現すると思っている。
恐怖の種をいちいち観察することを執着だと思っていて、観察して無いと何をされるかわからない。
だから、見張っている。
なぜ、男と食べ物に恐怖感じるのか…
幼少期に性的暴力が遭ったのかもしれないし、性の対象からはずれるために大きく痩せたり大きく太ることで自分を守っているのかもしれない。
あるいは、大好きな人から太っていると笑われてしまったことがトラウマとして刻まれており、自分を太らせる原因である食べ物を常に警戒しているのかもしれない。
何があったのかは、この女性にしか分からない文脈であるが、
極端な事象については、人生においてなんらかの分岐点となる出来事が経験されているはずだし、
そういう出来事があったとしても普通の人なら支えがあって乗り越えてきたかもしれないが、支えを得られない状況を強いられた人間の場合、
その衝撃からいまだ立ち直っていないこともある。
■新しい公式を教え込む存在が…
この彼女にも、きっと、身体でしか表現できない状況を受け止めて、言葉で表現することの意味を教え、
”言葉は届く”ということを教えて(思い出させて)くれる出会いが、どうかあって欲しいと思う。
愚痴や文句を言える人間ってのは、実は強い人間で、本当に弱いのは”間違った我慢強さ”を植え付けられてしまった人のことだ。
おわりにーー今の自分を構成している過去を紐解いて今の自分を肯定する
摂食障害に限らず、心の病気というのは一般に「何か問題がある」というサインです。
拒食症の場合は身体が痩せてしまうため、「体重を増やさなければ」というところにばかり目が行きがちですが
やはり心の病気なのです。
特に、その子の「ペース」や「やり方」が乱されているのではないか?
という可能性をみせてあげたい。
間の前の不適切に感じる行動を取る人間が、どういう文脈を持って生きているのか。
どうして、不適切に見えるようになってしまったのか?ということをアセスメントしてあげるのが、
大人の義務であり、子供が大人にもっとも望んでいる”愛の形”なのではないだろうか。