臨床家のための対人関係療法クイックガイド M・ワイスマン 水島広子訳 創元社


過食や拒食が、いつもよりヒドくなる時には、
大きなストレスが掛かった日である。


























臨床家のための対人関係療法クイックガイド

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■症例ーー思考の中での肥満


27歳の独身女性のEさんは、出版社で働くアシスタント編集者だが、神経性大食症で受診した。
彼女の主訴は「恥ずかしい事ですが、私は食べる事をコントロールできないのです」というものだった。

Eさんは14歳の時から過食嘔吐を繰り返していると言った。
普段はほとんど食べず、それから周期的にパウンドケーキや甘いものを大量に過食するのだった。

彼女は筋肉質で痩せており、スポーツジムで頻繁にトレーニングをしていたが、
「人からはわからない」ところで「とても太っている」と感じており、
鏡を見ては、外見の欠点を強迫的に探していた。

同様に、1日に何度も体重を測って、体重が受け入れられないものであると自らに吐く事を強いていた。
1日に最低1回は吐いており、それが必要な儀式だと思っていた。

彼女には人とのつきあいはあったが、自分の食行動に「嫌気がさす」か、自分の気分によってしらけるだろうと確信していたので、
誰にも気持ちを打ち明けていなかった。

家族とルームメイトにも同様に距離をとっていた。
多くの性的関係をもってきたが、自分は1人の男性と3回以上のデートはしたことがないという強がりを宣言していた。

男性は、「どういうわけか」彼女に魅力を感じるが、
たちまち彼女の醜い側面に気づくのだと感じていた。



EさんはSSRIを適切な形で2階試したが、ほとんど改善していなかった。






治療者はEさんを神経性大食症と診断した。
彼女の食行動は生活状況に関連しているかもしれないという事を治療者は指摘し、
彼女はこの関連に興味があるだろうかと尋ねた。

人間関係についての彼女の懸念を理解し、治療者はこれから16週間をかけて対人関係機能と症状の関連を理解することと
新しい対人関係スキルを育てる事を提案した。

治療者はこれを、彼女の最新の別れに続く”役割の変化”として説明した。
彼女は同意した。


Eさんは食べ物の話題に陥ることが多かったが、
治療者は彼女が心配になる状況は何かを探した。

起ころうとしていることに不安だったのか?彼女はどんな気持ちだったのか?
治療者はそれらの気持ちは正常なものだと一生懸命言った。

患者のそれらの気持ちを「変」だとか異常だとみなしがちだった。

彼女が失望や怒りを認識し、
そのような気持ちが起こってくる対人関係の状況のパターンに気づくと、
治療者と彼女はそれを言葉にして他人に表現する方法を考え始めた。






過食はほんの短い間は慰めるが、すぐに悩ましいものになり、
それから、嘔吐につながり、自分を「気持ちの悪い変人」のよう感じた。
彼女は自分の気持ちをためらいがちに表現するようになった。



治療者は彼女が達成したものを祝い、月1回の維持治療に合意し、
彼女はその2年半の間、ほとんど症状がないままだった。



今では初めて関係が続いた男性がいて、婚約している。









■コメント

併存するうつの有無にかかわらず、神経性大症はIPTで治すことができる。
Eさんは単に摂食症状を克服しただけではなく、対人関係というおそらくさらに重要な領域に取り組むことによって、
それを実現したのだ。

多くの神経性大食症患者と同じように、Eさんは食のことで頭がいっぱいであったため、
気持ちと対人関係の関連が分かっていなかった。